エステサロン社員が抱える“理想と現実”のギャップとは

最終更新日 2025年5月8日 by auroot

「エステティシャンってステキな仕事ですね」——そう言われるたび、いつも少し複雑な気持ちになるものです。

25年以上この業界で働いてきて、美容の最前線に立つことの喜びと苦労を知り尽くしました。

キラキラした制服に身を包み、優雅な空間で美の魔法を操る——そんな華やかなイメージがエステティシャンには付きまとっています。

しかし現実は、そのイメージとはかけ離れていることが少なくありません。

私が店長を務めた10年間、どれほど多くの若いスタッフたちが「思っていた仕事と違う」と涙を流したことでしょう。

今回は、エステサロン社員が抱える「理想」と「現実」のギャップについて、現場を知る者としての視点からお伝えします。

これから業界を目指す方も、すでに現場で奮闘している方も、このリアルな姿を知ることで、より自分らしい働き方を見つけるヒントになれば幸いです。

エステサロン社員が抱く”理想”とは

美を届ける仕事への誇りと夢

「お客様の人生を変えられる仕事」——多くのエステティシャンがそんな理想を胸に秘めて入社します。

女性の美しさや自信を引き出し、その変化に寄り添える仕事は確かに魅力的です。

私自身、最初はそんな純粋な気持ちでこの世界に飛び込みました。

お客様の肌が生き生きと変わっていく瞬間。

悩みを抱えていた方が鏡の前で満面の笑みを浮かべる時。

そんな瞬間に立ち会えることは、この仕事の最大の喜びといえるでしょう。

しかし、その「美を届ける」という行為は、想像以上に地道で厳しい修行の先にあるものなのです。

キラキラした職場イメージの現実的な背景

エステサロンの内装は確かに美しく、心地よい香りに包まれています。

しかし、その空間が維持されるために、どれほどの労力が裏で動いているか——入社前に知る人は多くありません。

「朝一番に出勤したスタッフは、床の一粒のホコリも見逃さない目を持っていなければなりません。夜の最終施術が終わった後も、明日のために完璧な空間を整える責任があるのです」

これは私が新人時代に先輩から言われた言葉です。美の現場には美しい空気感が不可欠なのです。

実際のエステサロンの裏側には以下のような現実があります:

  • 1. 早朝からの準備作業:オープン1時間前には出勤し、清掃からタオル準備、機器チェックまで
  • 2. 休憩なしの連続施術:予約が詰まっている日は昼食を取る時間もないことも
  • 3. 深夜までの業務:最終施術後の片付け、翌日の準備で21時以降まで残ることも珍しくない
  • 4. 休日出勤の常態化:繁忙期や人手不足時には休日返上で働くことも

このような労働環境は、美しさを提供する仕事の「影」の部分といえるでしょう。

SNS時代に膨らむ「なりたい自分」とのギャップ

近年特に目立つのが、SNSによって増幅される「理想のエステティシャン像」と現実とのギャップです。

Instagram等では、エステティシャンの華やかな一面だけが切り取られ、投稿されています。

美しい制服に身を包み、笑顔で施術する姿。
洗練された空間での優雅なひととき。
美容のプロフェッショナルとしての輝かしい姿。

これらは確かにエステティシャンの一面ですが、全体像ではありません。

実際の現場では:

  1. 汗だくになりながらの身体的にハードな施術
  2. 難しい要望を持つお客様への対応
  3. 休みなく続く予約への対応で疲労が蓄積

こういった日常はめったにSNSには投稿されません。

「インスタ映え」する姿に憧れて入社してくる若いスタッフほど、このギャップに苦しむ傾向があります。

「現実は厳しい」と伝えることも大切ですが、それを伝えつつも希望を持たせること——それがベテランの役目かもしれません。

現実としてのサロンワーク

肉体労働と時間管理の厳しさ

エステティシャンのお仕事は、華やかな印象とは裏腹に、実は相当な肉体労働です。

私の右手の指は、何万回ものマッサージで永久に真っ直ぐに伸びなくなってしまいました。

それでも技術を磨き続けるエステティシャンの体には、さまざまな「勲章」が刻まれていくのです。

時間管理の厳しさも見逃せません。

施術は基本的に時間との戦いであり、1分の遅れが次のお客様へと影響していきます。

エステティシャンの身体的負担の実際

負担の種類主な症状・影響予防・対策
腰痛長時間の前傾姿勢による慢性痛正しい姿勢での施術、腰部サポーター
手首・指の痛み反復動作による腱鞘炎施術間のストレッチ、温冷療法
足・脚の疲労立ち仕事による静脈瘤リスク着圧ソックス、足上げ休息
肩こり緊張姿勢の持続肩甲骨ストレッチ、定期的な整体

エステティシャンとして10年以上働くと、ほとんどの人が何らかの身体的不調を抱えるようになります。

それでも技術を磨き続け、お客様に最高の施術を提供し続ける——そんな現場のプロフェッショナルの姿勢には、本当に頭が下がる思いです。

ノルマ、売上、評価…数字に追われる日々

エステサロンは「癒し」や「美」を提供する場所ですが、同時にビジネスの現場でもあります。

多くのサロンでは、施術だけでなく商品販売やコース契約のノルマが課せられることが一般的です。

「今月の売上が足りない」
「契約件数があと3件必要」
「リピート率が落ちている」

そんな数字に常に追われる環境は、入社前に想像していた「お客様に喜んでもらうだけの仕事」というイメージとは大きく異なります。

特に新人時代は、ノルマ達成のプレッシャーと、まだ完全に習得できていない技術との板挟みになり、精神的に追い詰められがちです。

私の場合、入社3年目に初めて月間売上目標を達成できたときのことは今でも鮮明に覚えています。

涙が出るほど嬉しかったのは、数字を達成できたからではなく、「自分の提案がお客様の役に立った」という実感を得られたからでした。

数字はあくまで結果であり、目的ではないことを見失わないことが大切です。

「お客様第一」が社員を追い詰める瞬間

エステ業界では「お客様第一」が絶対の原則です。

それ自体は素晴らしい理念ですが、時にこの原則が極端に適用されることで、スタッフが追い詰められることもあります。

お客様第一が行き過ぎた時の実例:

  • 自分の体調不良よりもお客様の予約を優先せざるを得ない状況
  • 理不尽なクレームでも「お客様は常に正しい」と対応せねばならない板挟み
  • プライベートな予定よりもサロンの急な呼び出しを優先する文化
  • お客様からの過剰な要求や境界線を越えた行動を受け入れざるを得ない場面

こうした状況は、単なる「仕事の厳しさ」を超えて、スタッフの自尊心や健康を損なうこともあります。

私が店長になってから最も力を入れたのは、「お客様にも、スタッフにも、互いに敬意を持って接する」文化の構築でした。

サービス業だからこそ、スタッフが健全な自己肯定感を持っていなければ、本当の意味での「おもてなし」はできないと考えています。

心のギャップ:辞めたくなる理由、続けたくなる理由

感謝の言葉が心を支えるという矛盾

エステティシャンとして働いていると、「もう辞めたい」と思う瞬間が誰にでも訪れます。

私自身、入社5年目には深刻な燃え尽き症候群に陥り、退職届を書いたこともありました。

それでも続けられたのは、お客様からの一言に救われたからです。

「明子さんの施術を受けると、心まで美しくなれる気がするんです」

そんな言葉を頂いた日は、どんなに疲れていても帰り道が軽やかに感じるものです。

不思議なことに、エステティシャンの多くは「辞めたい」と思う理由と「続けたい」と思う理由が同じ場所にあります。

お客様のための完璧な施術を目指すがゆえの疲労。
でも、そのお客様からの感謝の言葉が心の支えになる。

この矛盾こそが、エステティシャンという職業の特徴かもしれません。

同僚との絆が心の支えになるとき

サロンワークの厳しさを乗り越えるもう一つの力は、同僚との絆です。

「完璧な施術、完璧な接客、完璧な売上——一人では到底無理なことでも、チームなら乗り越えられる」

これは私が新人時代に憧れていた先輩エステティシャンから教わった言葉です。

確かに、エステサロンは女性が多い職場で、時に人間関係のトラブルが発生することもあります。

しかし、同じ苦労を分かち合える仲間がいることは、この仕事を続ける大きな支えになるのも事実です。

チームで支え合うための工夫例:

  • 1. 小さな成功の共有:お客様からの良い反応があった施術方法をシェア
  • 2. 互いの得意を活かす:顧客対応が得意な人、技術が得意な人など、それぞれの強みを認め合う
  • 3. オフの時間を大切に:定期的な食事会や息抜きの時間で信頼関係を構築
  • 4. 健康管理の声掛け:無理をしていないか互いに気にかける文化を作る

競争ではなく共創の姿勢を持てるチームほど、長く続くサロンになると実感しています。

夢を見続けるには”何か”を手放す必要がある?

エステティシャンとして長く働き続けるためには、何かを手放さなければならない場面もあります。

それは時に、仕事への完璧主義だったり、余暇の時間だったり、ときには理想のキャリアパスそのものだったりします。

私の場合、「完璧なエステティシャンになる」という最初の夢は、現場の経験を積むうちに「お客様に寄り添える存在になる」という別の形に変わっていきました。

技術の完璧さを追求する気持ちは大切ですが、それが自分を追い詰める原因になるなら、「十分に良い施術」と「理想の施術」の間に境界線を引く勇気も必要です。

また、プライベートの時間や体力の配分も意識的に行うことで、長く働き続けられる土台が作れます。

「全てを完璧に」ではなく「今できる最善を」という視点の転換は、エステティシャンとしてのキャリアを長く続けるための知恵かもしれません。

教育と現場育成の難しさ

「理想」を教えることの責任

新人エステティシャンの教育は、業界全体の将来を左右する重要な役割です。

しかし、ここにも大きなジレンマがあります。

「理想の技術と理念を伝えたい」という気持ちと「現実の厳しさも知ってほしい」という思い——この両方をバランスよく伝えることは簡単ではありません。

若いスタッフの夢を壊すことなく、しかし甘い幻想を抱かせすぎないこと。
完璧を目指して指導しつつも、無理な要求で潰してしまわないこと。

この綱渡りのような指導は、現場の教育担当者にとって大きなプレッシャーです。

私が教育担当になって最初に学んだのは「理想を教えるなら、そこに至る苦労も正直に伝える」ということでした。

「このマッサージの技術は美しく見えるけれど、習得するまでに3か月、毎日2時間の練習が必要よ」
「お客様からの感謝の言葉には大きな喜びがあるけれど、それまでに乗り越える壁もあるということを知っておいて」

そんな声かけを意識することで、新人スタッフは現実を知りつつも、希望を持って成長できる環境が作れると信じています。

新人が挫折する瞬間とは

私の経験では、新人エステティシャンが挫折しやすいのは、入社から3か月〜6か月の時期です。

初めての単独施術を任された後、お客様からのフィードバックに直面する時期。
基本的な技術は習得したものの、まだ自信が持てない段階。
周囲のベテランスタッフとの技術差を実感する瞬間。

この時期に適切なサポートがなければ、多くの新人スタッフは「自分には向いていない」と諦めてしまいます。

新人が直面する主な障壁

  1. 技術の壁:基本は習得したが、応用や臨機応変さがまだ身についていない
  2. 精神的な壁:お客様からの要望や反応に対する不安や緊張
  3. 体力の壁:慣れない立ち仕事や施術による体の疲労
  4. 人間関係の壁:先輩スタッフとのコミュニケーションの難しさ

サロンによって教育制度は異なりますが、これらの障壁を一つずつ乗り越えられるような段階的な指導が理想です。

特に大切なのは「失敗しても大丈夫な環境」を作ること。

完璧を求めるあまり失敗を過度に恐れる文化では、新人の成長は阻まれてしまいます。

サロンの未来を担う若手との向き合い方

サロンの未来を担う若手スタッフには、単なる「指導」以上の関わりが必要だと感じています。

私自身、若手との関わりで心がけていることは次の3点です:

1. 彼らの「なぜ」を尊重する
今の若いスタッフたちは「なぜそうするのか」という理由を知りたがります。
「昔からそうだから」ではなく、理由を説明し、納得してもらうことが大切です。

2. 彼らの価値観を理解する
私たちの世代とは異なる価値観や働き方の希望を持っています。
それを否定せず、サロンのあり方そのものを柔軟に考え直す姿勢も必要です。

3. 彼らの強みを活かす場を作る
デジタル技術に強い、新しい美容トレンドに敏感、SNS発信が得意…
若手ならではの強みを活かせる役割を与えることで、モチベーションと成長を促せます。

「若い世代を理解しようとしない業界に、未来はありません。彼らの声に耳を傾け、ともに変わっていく勇気を持つこと——それが私たち先輩世代の責任です」

この考えが、私が独立後も若手育成に力を入れている理由の一つです。

業界大手である「たかの友梨」でも社員との信頼関係を大切にし、お客様と社員に支えられる経営理念を掲げているように、エステサロンの成功には人材育成が欠かせません。

それでも続けたい理由

美しさは、心の姿勢——仕事を通じて見つけた答え

数々の困難や葛藤を経験しながらも、私がエステの世界を愛し続ける理由。

それは、この仕事を通じて見つけた「本当の美しさとは何か」という問いへの答えにあります。

真の美しさとは外見だけではなく、心の姿勢にこそ宿る——この信念は、25年の現場経験から得た私の宝物です。

輝くような肌も、引き締まったボディも、確かに魅力的です。

しかし、自分自身を大切にする姿勢、自信を持って前を向く強さ、そして他者への思いやり。

そういった心の美しさが外側に滲み出たとき、人は最も魅力的になるのだと実感しています。

エステティシャンの仕事は、単に外見を整えるだけでなく、お客様の内側から湧き上がる美しさを引き出すお手伝い。

それに気づけたからこそ、この仕事に深い意義を感じ、今も携わり続けているのだと思います。

“誰かの人生に触れる”という重み

エステティシャンの仕事には、他の職業にはない特別な側面があります。

それは、お客様の体に直接触れ、時にはデリケートな悩みに寄り添い、人生の節目に立ち会うという経験です。

結婚式前に訪れる花嫁さん。
出産後に自分を取り戻したいと来られる母親。
大切な面接前に自信をつけたいと来店される方。
人生の転機に「何か変わりたい」と足を運んでくださる方。

こういったお客様との出会いは、単なるサービス提供以上の深い関わりを生みます。

「あの日のエステで、私は変わる勇気をもらった」

そんな言葉をいただいたときの感動は、どんな高額な報酬にも代えがたいものです。

誰かの人生の物語に、わずかでも良い影響を与えられる——この仕事の特権であり、重みでもあります。

西嶋明子が見た「現場で光る人」の共通点

25年以上の現場経験の中で、数多くのエステティシャンと働いてきました。

その中で、長く輝き続ける人、お客様から絶大な信頼を得る人には、いくつかの共通点があることに気づきました。

現場で光り続けるエステティシャンの共通点:

  • 1. 完璧主義と柔軟性のバランス
    完璧を目指しながらも、状況に応じて柔軟に対応できる人が長続きします。
  • 2. 自己投資を惜しまない姿勢
    自分の技術や知識にコストと時間をかけ続ける人は、必ず差がつきます。
  • 3. お客様を「見る」力
    言葉にされない悩みや希望を察知できる観察力と共感力を持っている人。
  • 4. 自分を大切にする習慣
    他者のケアをする仕事だからこそ、自分自身のケアもきちんとしている人。
  • 5. 常に「なぜ」を問う姿勢
    慣例や常識に囚われず、より良い方法を常に模索し続ける人。

これらの特性は、必ずしも入社時から持っている必要はありません。

経験を重ねながら、意識的に身につけていくことができるものばかりです。

私自身、最初からこれらを実践できていたわけではなく、多くの失敗と学びを通じて、少しずつ身につけていったものです。

まとめ

理想と現実のギャップを受け入れるという成熟

エステサロン社員として働くことは、理想と現実のはざまで常に揺れ動く経験です。

最初に抱いた「美しさを届ける素敵な仕事」というイメージは間違いではありませんが、それは物語の一部分に過ぎません。

肉体的な疲労、精神的なプレッシャー、人間関係の複雑さ——そういった現実も含めて受け入れることで、より深いやりがいと成長が待っています。

理想だけを追いかけるのではなく、現実を直視しながらも希望を持ち続ける。

その両立こそが、この業界で長く活躍するための「成熟」なのかもしれません。

現場を知る西嶋明子だからこそ語れる”リアル”

私がサロンの現場で25年以上働いてきたからこそ言えることがあります。

それは「この仕事は、想像以上に厳しく、想像以上に美しい」ということ。

新人時代の涙、店長としての葛藤、独立の不安——すべての経験が今の私を形作っています。

この記事を通じて、少しでもエステ業界の”リアル”をお伝えできたなら幸いです。

美化せず、でも希望を失わせない形で、この仕事の姿を描き出すことが、私の役割だと感じています。

働く女性たちへ:自分なりの「美」と「幸せ」を見つけて

最後に、エステサロンで働く全ての女性へ。

あなたの考える「美」や「幸せ」は何でしょうか?

それは、誰かに与えられた基準ではなく、自分自身で見つけるものであってほしいと思います。

完璧な技術者になりたい人もいれば、お客様との関係性を大切にしたい人も。
働き方も、フルタイムからフリーランス、オーナーまで、様々な選択肢があります。

「こうあるべき」という枠にとらわれず、自分にとっての理想と現実のバランスを見つけてください。

この記事が、そんな自分らしい道を探す一助になれば、これほど嬉しいことはありません。

美容の現場から、心を込めて。

西嶋 明子

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