転職活動で応募先のホームページを開くと、たいてい「社長メッセージ」や「代表挨拶」のページがあります。
読んではみたものの、志望動機に使えそうな一文をメモして終わり。
そんな読み方をしている方は多いのではないかと思います。
はじめまして、大阪でキャリアコンサルタントをしている三宅奈緒です。
求人広告の営業を7年、従業員80名ほどの会社で採用と研修の担当を5年経験したあと、独立しました。
採用担当だった頃は、社長メッセージの下書きを手伝ったこともあります。
書く側にいたからわかるのですが、社長メッセージには会社が「こう見られたい」という姿が詰まっています。
その姿が面接で出会う人たちの言動と合っているかどうか。
ここを確かめられると、入社後の「こんなはずじゃなかった」をかなり減らせます。
この記事では、社長メッセージを面接で企業を見極める道具に変える読み方と、面接での確かめ方をお伝えします。
目次
社長メッセージは「志望動機の材料」だけではもったいない
まずは、社長メッセージがどんなふうに読まれているかを数字で見てみます。
就職情報会社のキャリタスが2025年卒の学生1,030人に聞いた調査では、採用ホームページの「企業理念、トップメッセージ」をよく見た人の割合は、エントリーシート作成時や面接前が73.4%で、全コンテンツの中で最も高くなっていました。
ところが、内定を承諾するか辞退するかを判断するときには28.2%まで下がります。
新卒のデータではありますが、社長の言葉は「面接対策の材料」として読まれ、「入社してよいかの判断材料」にはあまり使われていないわけです。
転職者でも、入社後にこのずれで悩む人は少なくありません。
マイナビの「転職動向調査2026年版」では、2025年に転職した正社員1,446人のうち21.3%が、「理念や経営方針の現場の浸透度合い」は面接時の想定通りではなかったと答えています。
現職に不満がある人に絞ると、この割合は52.3%に跳ね上がります。
会社の将来像が見えないことも、転職のきっかけになっています。
厚生労働省の「令和7年雇用動向調査」によると、前職を辞めた理由に「会社の将来が不安だった」を挙げた転職入職者は、男性の25〜29歳で11.0%、35〜39歳で12.7%でした。
会社がどこへ向かおうとしているのかは、社長メッセージに一番はっきり書かれているはずの情報です。
面接官の対応で、入社したい気持ちは大きく変わる
もうひとつ押さえておきたいのが、面接そのものの影響力です。
エン・ジャパンが転職サイト利用者1万305人に行ったアンケート(2022年公表)では、面接や企業の対応で「この会社には入社したくない」と思ったことがある人が72%にのぼりました。
理由の上位は次の3つです。
- 面接官の態度が不快だった(49%)
- 求人情報と面接の話に食い違いがあった(33%)
- 想像していた仕事とずれがあった(30%)
2番目の「食い違い」に注目してください。
求職者は、会社が外に出している情報と面接で聞く話のずれを、ちゃんと感じ取っています。
社長メッセージを先に読み込んでおけば、このずれに気づく精度がぐっと上がります。
面接の前に、社長メッセージから拾っておきたい4つのこと
社長メッセージを読むときは、感想を持つより先に「面接で確かめる材料」を拾っておきます。
私が相談者の方にすすめているのは、次の4つです。
| 拾っておくこと | どこを読むか | 面接での確かめ方 |
|---|---|---|
| 会社がこれから向かう方向 | 「今後は」「これから」で始まる段落、新規事業の話 | 自分が入る部署がその方向とどう関わるかを聞く |
| 繰り返し出てくる価値観の言葉 | 「誠実」「挑戦」「チーム」など何度も出てくる単語 | その言葉を感じた最近の出来事を聞く |
| 社員や人材についての言及 | 「任せる」「育てる」「一人ひとり」などの表現 | 入社1年目の人がどこまで任されているかを聞く |
| 更新された時期と具体性 | 日付、数字、固有の出来事が入っているか | 書かれている取り組みの今の状況を聞く |
4つ目は見落とされがちです。
何年も更新されていないメッセージや、どの会社にも当てはまりそうな言葉だけで書かれたメッセージは、社内でもあまり読まれていない可能性があります。
逆に、具体的な数字や社内の出来事が入っているメッセージは、面接で話を広げやすい材料になります。
一方で、社長メッセージを入社の決め手にしすぎないことも大事です。
先ほどのマイナビの調査で入社を決めた理由を見ると、「経営者が魅力的である」は8.3%にとどまり、「給与が良い」の24.1%を大きく下回っていました。
社長の言葉は惚れ込むためではなく、現場とのずれを見つけるための物差しとして使う。
このくらいの距離感がちょうどいいと思っています。
面接で「社長の言葉が現場に届いているか」を確かめる
材料がそろったら、面接で実際に確かめます。
ここでは、逆質問の時間を使ったやり方を紹介します。
社長の言葉を引用して質問する
いきなり「社風はどうですか」と聞いても、きれいな答えしか返ってきません。
社長メッセージの言葉をそのまま引用すると、面接官も具体的に答えやすくなります。
たとえば、こんな聞き方です。
- 「社長メッセージに『若手に任せる』とありました。入社1年目の方が最近任された仕事で、印象に残っているものがあれば教えてください」
- 「『誠実さを大事にする』と書かれていたのが印象的でした。現場でそれを感じた出来事はありますか」
- 「今後は新しい分野に力を入れると拝見しました。私が応募している部署では、どんな変化が起きそうですか」
どれも、社長メッセージを読み込んできたことが伝わる質問です。
志望度の高さも伝わるので、評価が下がる心配はまずありません。
答え方で見ておきたいところ
質問の答えそのものより、答え方に会社の実態が出ます。
私が面接の同席者として見てきた中で、差が出やすかったのは次のような点です。
- 社内の具体的な人や出来事が出てくるか
- 一次面接と二次面接で、面接官の話が食い違っていないか
- うまくいっていない部分や大変な部分も話してくれるか
- 「うちは家族みたいな会社だから」などの精神論だけで終わっていないか
3つ目は特に大切です。
マイナビの同じ調査でも、入社の決め手になった面接官の印象として「入社後つまづいたり、難しいと感じるかもしれない部分について話してくれた」が12.0%挙がっていました。
しんどい部分まで話してくれる会社は、入社後のギャップも小さくなりやすいのです。
最終面接で社長本人に会えるなら
中小企業では、最終面接に社長が出てくることがよくあります。
社長メッセージの書き手と直接話せる、貴重な機会です。
ここで聞きたいのは、メッセージに書かれていない「その先」の話です。
たとえば「メッセージにあった新しい分野への挑戦は、いつ頃、どのくらいの規模で考えていらっしゃいますか」と聞いてみます。
文章と同じ熱量で、数字や時期まで具体的に語れる社長なら、言葉と経営がつながっていると見てよさそうです。
もうひとつ見ておきたいのが、社長の話と、それまでの面接官の話が合っているかどうかです。
社長は「若手にどんどん任せたい」と言うのに、現場の面接官は「最初の3年は下積みです」と言う。
こうした食い違いは、社長の考えが現場まで伝わりきっていないサインです。
責める必要はありませんが、入社後にどちらの方針で働くことになるのかは、その場で聞いておいて損はありません。
面接官の質問そのものも判断材料になる
面接官からの質問にも、会社の姿勢が表れます。
厚生労働省の「公正な採用選考をめざして」では、就職差別につながるおそれがある14事項として、本籍・出生地、家族のこと、尊敬する人物、愛読書などを挙げています。
同じページによると、令和6年度にハローワークが把握した854件のうち、多くを占めたのは「家族に関すること」の質問でした。
面接の空気を和らげるつもりで聞いてしまうケースが多いそうです。
社長メッセージで「一人ひとりを大切にする」とうたっていても、面接官が雑談のように家族の職業を聞いてくるなら、その理念は採用の現場まで届いていないと考えられます。
質問の中身は、社長の言葉と現場をつなぐ研修や仕組みが社内にあるかどうかの目安になります。
経営者の側も「見極めてほしい」と考えている
ここまで求職者の側から書いてきましたが、経営者の中にも同じ考えを発信している人がいます。
大阪で求人メディア開発や経営コンサルタント業を手がける株式会社キヨウグループの代表取締役、関井圭一氏もその一人です。
企業紹介メディアの記事では、関井氏の考えとして、面接は求職者の側からも「この企業は本当に自分を大切にしてくれるか」を見極める対等な対話の場であるべきだ、と紹介されています。
特に印象に残ったのは、ホームページや社長メッセージに書かれた理念が現場の社員まで浸透しているか、面接官の対応に働く人への敬意が感じられるかを観察してほしい、という部分です。
採用する側の経営者が、自社の社長メッセージを「確かめられるもの」として扱っている。
この記事で伝えたいことと、ぴったり重なっていました。
もうひとつ、社長メッセージを読む前に「自分はなぜ転職したいのか」をはっきりさせておくことも勧めています。
収入を上げたいのか、専門性を身につけたいのか、働き方を変えたいのか。
軸が決まっていないと、社長の言葉のどこを確かめればいいのかも決まりません。
気になった方は、関井圭一氏が転職者に向けて語った企業選びの考え方をまとめた記事も読んでみてください。
面接官がどんな目で見られているかを知ると、逆質問の準備がしやすくなります。
面接が終わったら、その日のうちに答え合わせをする
面接の直後は緊張がほどけて、印象だけが残りがちです。
その日のうちに、社長メッセージの言葉と面接で聞いた話を並べて書き出してみてください。
| 社長メッセージの言葉 | 面接で聞いた話 | 一致していたか |
|---|---|---|
| 若手に任せる | 2年目の社員が新規取引先を担当していると聞いた | 一致 |
| 誠実さを大事にする | 具体例を聞いたが「お客様第一です」で終わった | 保留 |
| 新分野に力を入れる | 配属予定の部署では特に変化はないと言われた | ずれ |
「ずれ」や「保留」があっても、すぐに不合格の会社だと決めつける必要はありません。
面接官がたまたま知らなかっただけかもしれないからです。
次の面接や内定後の面談で、同じことをもう一度聞いてみれば十分です。
ただ、聞かないまま入社するのは避けたいところです。
エン・ジャパンが2024年に公表した調査では、社員クチコミを見て不安になった内容を企業に質問していない人が85%いました。
理由には「本音で話してもらえないと思う」「質問して不採用になるのが怖い」といった声が並んでいます。
社長メッセージを引用した質問なら、角が立ちにくく、本音も引き出しやすくなります。
労働時間や有給休暇の取得日数など数字で確かめたいことは、厚生労働省の職場情報総合サイト「しょくばらぼ」で公開されている場合もあるので、面接前に調べておくと質問を絞れます。
まとめ
社長メッセージは、志望動機の材料で終わらせるにはもったいないページです。
会社がこう見られたいと願う姿が書かれているからこそ、面接で出会う人たちの言動と突き合わせる価値があります。
- 面接前に、向かう方向、価値観の言葉、人材への言及、更新時期の4つを拾う
- 逆質問では、社長の言葉を引用して具体的な出来事を聞く
- 答えの中身だけでなく、答え方や面接官の質問そのものも見る
- 面接の日のうちに答え合わせをして、ずれは次の面談で確かめる
面接で評価されるのは、求職者だけではありません。
会社の側も、社長の言葉が現場まで届いているかを見られています。
遠慮せずに確かめて、納得できる一社を選んでください。